アメリカにおける人工妊娠中絶の現状 ―覆された「ロー対ウェイド」判決―
https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info:ndljp/pid/13113247
著 : 国立国会図書館 調査及び立法考査局 主任調査員 社会労働調査室 鈴木智之
発行年 : 2023 年
掲載誌 : レファレンス 2023 年 11 月号
概要
1973 年 6 月 17 日、アメリカ連邦最高裁判所は 「ロー対ウェイド」 訴訟の判決 (ロー判決) を下し、人工妊娠中絶 (中絶) を合憲とした
同判決はアメリカにおける中絶の世論を二分
胎児の生命の尊重を主張して中絶に反対するプロ・ライフ派
中絶する権利を擁護するプロ・チョイス派
2022 年 6 月 24 日、アメリカ連邦最高裁判所は 「ドブス対ジャクソン女性健康機構」 訴訟の判決 (ドブス判決) を下し、約 50 年の時を経てロー判決は覆された
中絶を是とするか否かは各州の判断に委ねられることに
ドブス判決後、全米各地において中絶を禁止する州法が直ちに制定、施行
2023 年 9 月現在、アメリカでは 22 の州において 29 件の中絶禁止法が施行されている
そのうち、妊娠の全段階を対象とした中絶禁止法は 16 件、胎児の心拍が確認された後の中絶を禁止するハートビート法は 6 件
多くの州では、ロー判決が覆された時点で発効する 「トリガー法」 として中絶禁止法を制定しており、ドブス判決後、こうしたトリガー法が相次いで施行されている
中絶禁止法が制定されてはいるものの、中絶賛成派が法律の差止めを求めて訴訟を提起し、施行に至っていない州が 4 州
中絶禁止法が施行されている州においても訴訟が提起され、裁判所による差止命令及び命令の解除が矢継ぎ早に行われるなど、法廷闘争をめぐる混乱が少なからず引き起こされている
中絶の是非をめぐる各州の状況は安定しているとは言えない
他方、ニューヨーク州、カリフォルニア州、ワシントン州など、中絶提供者の活動を積極的に支援し、中絶の権利を保護するための法律の制定や州憲法の改正を行っている州もある
日本への影響
日本には堕胎罪があるものの、中絶は母体保護法によって基本的に認められている
中絶の可否が政治的な問題とされることは少ない
にもかかわらず、日本の中絶事情は欧米の数多くのメディアで取り上げられている
それらの報道に共通するのは、日本が先進国の中で中絶に対して最も不自由な国であるという論調である
日本は女性が中絶を受ける際に配偶者の同意を得ることが義務付けられている 11 か国の 1 つであることなどに焦点が当てられている
2016 年、国際連合女子差別撤廃委員会は、日本の第 7 回及び第 8 回合同定期報告に関する最終見解(286)として、母体保護法を改正し、人工妊娠中絶を受ける妊婦が配偶者の同意を必要とする要件を除外するよう勧告
米国と異なった形ではあるが、日本もまた出産に関する女性の自己決定権をめぐる課題に直面している
その課題への対処に世界的な注目が集まっている